未来のあった話
書きました。リハビリがてら。
なんだか急に夏が終わり始めて、夜がひやりとして来ました。ね。春の終わりみたいだなぁってぼんやり指が動いてたよ。
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【僕達は夢を語らない】
どうせ私たちに未来なんてないんですよ。そう吐き捨てて、実乃はタバコに手を伸ばした。普段吸わない実乃は、アルコールを口にするときだけ、誰かから貰っている。今日は朝登のマルボロが一本連れ去られて、実乃の口元に滑り込む。瑠未はぼんやりとそれを眺めていた。
フロアでは気怠げに働くのに、酒が入ると途端に陽気な酒呑みに化ける、そんな実乃から目が離せない。決してやましい気持ちではなく、年上ながらギャップを愛おしいとさえ思ってしまった。
「ほんでお前、最近どうなの」
朝登が不意に瑠未を見遣る。それはもう突然すぎて、皿に伸びかけた箸がぴたりと止まってしまった。
その口がつり上がっていて、言葉の端々に悪意さえ覚える。それでも嫌な気がしないのは、それなりの信頼関係の賜物かもしれない。
どうもこうもないでしょ、と言う前に、瑠未の元へ冷酒が運ばれてくる。猪口は一つしかなかった。とりあえず、と注いで、唇を湿らせる。こんなものを、あの人たちはいつも飲んでいるのかと思うと、喉の奥がひりひりした。ここには自分しかいないのに、指先がぽかぽかと熱を帯びてくる。
瑠未ちゃん、と呼ぶ甘い声。眩しい夜の景色がフラッシュバックする。あの時の新堂の瞳は、歌舞伎町の安っぽいネオンさえ映していなかった。その瞬間に瑠未は全部悟った。気がした。あれは幻だったのだと。
テーブルの下で指先が絡め取られる、その瞬間を思い出す。誰にも知られてはいけないゲームみたいだと思って、声を出せない自分がいた。もう死ぬかもしれないと思った、春の夜。浮かれた自分がとんだ間抜けだったと教えてくれたのは、あれから四ヶ月も後のことだった。思い出して今でも死にたくなる。
気のせいでしょ。ハイそうですね。なんて笑った自分は、カメレオン女優だったんだろうか。流行りのカメレオン俳優ならぬ。あんにゃろう涼しい顔して、私だけがバカを見たようになって、なんてことまでは言わない。女だからって。
「おい、佐藤」
と、朝登の声に、ハッとする。甘ったるい声なんてどこにもない。目の前には不躾な上司。
ここは歌舞伎町でも何でもない。安っぽい大衆居酒屋だ。自分を惑わせるものは何もない。その瞬間、猛烈に安心してしまった。
実乃の手元で、マルボロが灰皿に押し潰される。ふぅ、と細い紫煙が立ち上るのを見て、瑠未は呟く。
「あたしに未来なんてあるわけないですけど、まあそれなりにやってますよ」
朝登と実乃が、顔を見合わせる。先に笑い出したのは、朝登だった。
「お前、未来悟るの早すぎだろ」
「早くないっすよ、ロクでもない奴ばっかですもん」
「瑠未ちゃん理想高いやん、そこやと思うよ」
「だからぁ高くないって言ってるじゃないですか…」
瑠未の嘆きは、喧騒に包まれて消えてしまう。けれど、もうどうでも良かった。自分の声が、想いが埋もれてしまう方が今は気楽でいい。いつだって自分の声が届きすぎていた。あなたの耳に届かない、わけがなかった。
忘れてしまいたい。忘れられるのだろうか。なんてことは今は分からないけれど、前を向くために笑うしかなくて、残っている冷酒を一息に飲み干した。
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実は私、マルボロ推しで、電子タバコはまだ慣れない。非喫煙者なので匂いだけ。自分の上司が吸ってるからです。
全編幻でした、みたいなことが往々にしてあって、たぶんその度に人は笑って全部無かったことにしようとする、あれって防衛本能なのかな。ですよね〜って笑うのだけ上手になっていって、なんかそういうの寂しいよなって思うんだけど。
幻なのかな?って思ったんだけど携帯にデータ残っとるやん、いやいや幻じゃないやん。あるある。
だから、なかったことにしなくていいのになって思う。なかったことにしちゃったら、それってもう自分を折ってる。いや、折るべきとこは折るべきだけど、そこまで折る必要ある???ない。
なんかもう夏の終わりが迫って来ていて、今年のおばあちゃんの命日、どんな顔して墓参りすればいいんだろって思います。能面でもかぶって行こうかな。
などと思いながら綴りました。
「女」であることしかフォーカスされないって、もはや私のアイデンティティって何なんだ、と思うことが多すぎたので、次の一年は仕切り直して全方位に私の押し売りをしていきたいと思います。